日本語教師のみやざきです。
本日、「日本語教育推進法」が参議院本会議で可決・成立しました。
日本語教育推進法は、2018年5月29日付で政策要綱が策定され、
同年12月に「日本語教育推進法案」が公表されました。

そもそも、日本語教育推進法って…?

日本語教育推進法は簡単に言うと
日本語教育を希望する人が誰でも日本語教育を受けられるようにする
ための法案です。

でも、日本語を勉強したい人たちってそんなにいるの…?
そこで今回は日本語教育推進法 第三章・第一節から
「日本国内で日本語教育が必要な人たち」について解説します!
日本語教育推進法とは?
公益社団法人日本語教育学会 http://www.nkg.or.jp/ によると、
日本語教育推進法の「第三章 基本的施策」には、以下の5つが挙げられています。
第 一 節 国 内 に お け る 日 本 語 教 育 の 機 会 の 拡 充
公益社団法人日本語教育学会 日 本 語 教 育 の 推 進 に 関 す る 法 律 案 (縦書き)
第 二 節 海 外 に お け る 日 本 語 教 育 の 機 会 の 拡 充
第 三 節 日 本 語 教 育 の 水 準 の 維 持 向 上 等
第 四 節 日 本 語 教 育 に 関 す る 調 査 研 究 等
第 五 節 地 方 公 共 団 体 の 施 策
http://www.nkg.or.jp/wp/wp-content/uploads/2018/12/02_horitsuan20181203.pdf
公益社団法人日本語教育学会 日 本 語 教 育 の 推 進 に 関 す る 法 律 案 (横書き)
http://www.nkg.or.jp/wp/wp-content/uploads/2018/05/180529_kihonhoan.pdf
上記を「できるだけやさしい日本語」にすると、以下のようになります。
1. 国内で日本語を勉強したい人の、勉強のチャンスを増やしましょう。←【第一節】
2. 外国で日本語を勉強したい人の、勉強のチャンスを増やしましょう。
3. 日本語を教える人の、教授レベルが下がらないようにしましょう。
4. 日本語を勉強したり、教えたりする人たちのデータを整理しましょう。
5. 日本語の勉強が必要な人がいたら、都道府県や市町村の職員は協力しましょう。

今回は、【第一節】の「国内で日本語支援を必要とする人」に
どんな人たちがいるのかを一緒に確認していきます!
日本で日本語を学びたい人の学習のチャンスを増やす
実は、日本国内で日本語学習を必要としている人は少なくありません。
「日本語学校に行けばいいんじゃないの?」
「国際交流団体が日本語支援をやってるから十分なのでは?」
「そもそも、家族や友達に日本人がいるなら問題ないんじゃないの?」
こんな声もたびたび聞かれます。しかし、
「お金をかけて」「決められた場所で」「決められた時間」に
全員が日本語を学びにいけるでしょうか。
身近な知人や家族に日本語が話せる人がいたとしても
日本語を体系的に学ぶことができずに
日常生活に支障をきたしている人もいます。
様々な人の日本語学習を支援しようというのが、今回可決された法案です。

では、具体的にはどのような人たちがいるのでしょうか?
外国人児童等への日本語教育
クラスに外国にルーツを持つ子が来て数年。
その子は当時、日本語が話せなかったけど
最近では友達と日本語で楽しくおしゃべり
をしているから、日本語は問題ないはず!
そのように考えてしまいがちです。しかし、
「生活言語」と「学習言語」は習得にかかる年数が異なるため、
「日本語がペラペラに見えるけど、実は学校の授業には全くついていけていない」
ということが教育現場では少なからず起きています。
日本では中学校までが義務教育ですが、高校に入学するには受験が必要です。
日本語力不足で高校受験につまずき、その後のキャリア形成が上手くいかず、貧困に陥るケースも少なくありません。
文部科学省も、外国人児童の高校進学について
高校入試という壁を乗り越えることが難しい(受験自体をあきらめることも)
文部科学省 NPO等による外国人児童生徒に 対する就学促進事例について ー高校進学支援を中心にー 9ページ
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/121/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2016/04/14/1369164_03.pdf
と見解を示しています。

今回の日本語教育推進法では、この問題をトップに
盛り込んでいることから、政府が最も重視しているのは
この部分の改革・整備であることがわかります。
加えて、子どもたちの日本語や教科指導を支える教員・支援員等の配置や指導体制についても、必要な施策を講ずると述べられています。
今後の政府の動きに注目です。
外国人留学生への日本語支援
文部科学省の平成30年度の報告によると、
平成28年度に外国人留学生で日本で就職した学生は4割弱にとどまっています。
その背景として、大学などの高等教育機関での
就職のための日本語能力の支援体制が不十分であることが挙げられます。
企業からみて外国人留学生が就職活動で改善してほしいのは
①日本語能力が不十分(38.9%)
独立行政法人日本学生支援機構より 文部科学省「外国人留学生の就職促進について」平成30年6月
②日本企業における働き方の理解が不十分(36.9%)
https://www.jasso.go.jp/ryugaku/study_j/job/__icsFiles/afieldfile/2018/12/05/01_ryuugakusei_monkasyou.pdf
この状況を改善すれば、企業の求める日本語力が培われ、
日本で就職する外国人留学生が増加することが期待されるというものです。
※ただし、日本語能力が十分で企業から内定がもらえても就労ビザが下りない場合もありますし、日本語が不十分でもビザが下りる場合があります。
ビザ不許可・不交付の理由はさまざまですが、適宜「申請取次行政書士」へ相談するなど、専門家に手続きを依頼するのも一つの手段です。

日本語の支援があれば就職が可能になる留学生もいる一方で、日本語以外の専門的な手続きの支援を必要としている留学生もいます。
今後は就職を希望する留学生の総合的なサポートが求められます。
就労者や技能実習生への日本語支援
日本では多くの外国籍の方が働いています。
この項目では、 就労ビザや外国人技能実習制度利用者のために、
以下の3つの日本語支援方針が書かれています。
- 企業が日本語学習の機会および専門的な日本語教育を支援できるようにする
- 企業が日本語教材の開発やその他の支援を行うことができるようにする
- 定住外国人が仕事をするために必要な日本語能力を支援できるようにする
「雇用して、ハイ終わり」ではなく、
必要な日本語教育を企業側が支援できるように
国が働きかけるという内容です。

雇用者にも、日本語教育の機会を!
難民認定を受けている人の日本語支援
難民認定とは、自国で迫害を受ける恐れがあると
認められた場合に在留を許可される制度です。
彼らとその家族への「定住に必要な日本語」の支援を
国が働きかける、という内容です。
法務省によると、平成30年度に難民申請をした人は10,493人で、
そのうち在留を認められた人は82人、難民と認定されたのは42人にとどまっています。

日本は世界的に見て「難民認定に厳しい国」と言われています。
日本語教育推進法の可決が、難民申請者の暮らしをサポートする後押しになることも期待されています。
公民館などでの日本語支援
現在、都道府県や市町村の国際交流協会等で
「日本語入門レッスン」や「日本語れんしゅう会」などを
行っているところもありますが、
そもそもその開催場所まで通えない人もいます。
そのような人たちにも「各地域で日本語の支援を行うようにしましょう」
というのがこの部分の趣旨です。
また、共生社会への理解を国民に周知する
広報活動等も行うように、と記されています。

日本語支援を必要とする方からよく聞かれる声が
「日本語教室や日本語学校に行きたいけど時間が合わない」
「公共交通機関が不便なので、その場所までいく手段がない」
というものです。日本語教育推進法により、日本語支援を必要としている全ての地域住民が日本語を学べる環境が整うことが期待されます。
なぜここまで手厚くするのか
今後、日本国内に外国籍の方や外国にルーツを持つ方が
増えることは間違いありません。しかし、この法案に対して
「なぜ外国の人に税金を使うの?」
「自分には関係ないのでは?」
と否定的な方もいらっしゃると思います。
それでは、ちょっと想像してみてください。
使われる言葉がどんな言葉か
聞いたこともないような国で生活する際に
「言語教育が制度化されている国」
と
「言語教育が制度化されていない国」
どちらのほうが「安心して住めそう」という気持ちになるでしょうか?
近い将来、自分の親族・知人などのつながりのある人に
「日本語教育支援が必要な人」が出てくるかもしれません。
(私の叔父の配偶者も日系人ですが、日本語がほとんど話せません)
また、日本国籍を有していても、日本で生活するために
必要な日本語を学べずにいる人もいます。
今後の日本語教育は個人ではなく社会全体の課題として
国と自治体が責務を担うというのが「日本語教育推進法」の考え方です。
まとめ
今回は「日本語教育推進法」の第三章第一節から、
日本国内で日本語教育を必要としている人たちについてまとめました。
また別の機会に、第二章~第五章の解説を交えながら
「海外での日本語教育」や「日本語教育の周辺事情」について
お話できたらと考えています。
また次回の記事でお会いしましょう!